患者に必要と考えれば、専門医を紹介することになるし、診断や検査、あるいは手術や入院が必要となれば、医師が契約している病院に患者をあらためて出向かせて、そこで診ることになる。 日本では医師と病院とが一体というのが当たり前のように思われているが、医療機能を合理的に分けようとする米国では、病院は医師機能以外の医療ファシリティ、つまり、医療設備と看護婦等のスタッフと管理組織の一式を用意するもので、外部にいる医師たちは必要に応じて自分の患者を連れてきて、病院を使うものと考える。
このようにすると、医師自身の収入はその技術料に限られるため、自分の患者に不利益となるような、病院の過剰利用を行うインセンティブがなくなると考えられるのである。 このように、米国では医師が勤務医となるというのは、最近まで一般的ではなかった。
外来患者は医師が自分のクリニックで診るので、米国の病院は日本と違って以前は外来機能はなく、医師が患者を入院させる必要があると判断したときにだけ利用する施設であった。 それゆえ、米国では、患者は医師が連れてくるというわけで、医師は病院にとっての客であった。
このことからも日米とは病院経営の判断の視点が大きく違ってくる。 例えば断層写真を撮るMRIのような高額な医療機器を買うときに、日本の理屈では、これが医療のために良い、患者により良い医療を提供できるということで、医師の判断により導入が決定される。

しかし、米国の場合には、医師たちの間で人気の高い医療機器を病院に備えると、それを使いたいために多くの医師が患者を連れてやってくる、つまり病院の収益増に結びつく。 そこで、機器導入を決定すると考えるのである。
次に医療保険の仕組みは、日本の場合は国民皆保険であり、被用者保険と国民保険の二つに大きく分かれているが、病院窓口での負担割合に若干の相違があったり、所属先によって月々の保険料に多少の違いがあったりはするものの、ほぼ一律給付の保険システムといえる。 一方、米国ではメディケアとメディケイドの二つが公営医療保険として用意されているが、それはずいぶんと限られたものである。
たとえばメディケアは六五歳以上の老人の医療費を公で負担するものであり、腎透析患者あるいは一部障害者に限り六五歳未満でも援助しているが、いわゆる、高齢者医療保険である。 メディケイドは一定収入以下の貧困家庭の医療費を支払うという福祉医療である。
メディケアは連邦政府が主に管轄するが、メディケイドは州政府の管轄であるため、州ごとに多少とも内容が違っている。 この二つ以外はすべて個別の民営医療保険となり、例えば、各企業で保険会社数社と契約し、従業員がその中から一社を選んで加入するという形態がポピュラーである。
このときの保険料の負担はすべて会社側であり、会社はそれらを経費として処理できる。 いわゆる、報酬のひとつというわけである。
このことは歴史的な経緯で決まった。 というのは、第二次世界大戦中に労働者の賃金が凍結されたときに、それを補う付加的報酬として、労組との団体交渉の中で、雇用主による従業員医療保険負担が取り上げられ、戦後は最高裁が従業員の権利と判定し、一般に定着したからである。
なお、大きな企業では自分たちで保険のリスクを管理するところも多く、その事務、つまり保険の事務処理などの外注を引き受ける会社が現れるようになった。 あとでも説明するように、このような外注システムが既にあったことも医療保険管理業務の合理化を発展させ、マネジドケアを産み出す土壌となっている。
米国の場合、かつては、いかに早くクレームを処理できて、客である企業の従業員や医師に速やかに支払いを済ませられるかが保険会社の機能として重要で、医療費高騰が問題化し始める七〇年代より以前は、保険料よりもサービスで競争できた。 本来の経済性追求の視点からすると、保険会社は医療費支払いを節約するために、廉価に済ませられる医療機関を探し出し、加入者たちにそこで治療を受けるよう指導するのが当然かもしれない。

しかし、当時の医療供給システムの仕組みのなかでは、保険会社は患者の勤め先である会社から保険料を受け取って、発生した医療費を医療機関に支払うという事務的な処理のみを自分たちの仕事と考えていた。 そして、被保険者である患者は自分でお金を払わずに済むため、医療費の金額を気にせずにどんなに高いところであっても、行って医療サービスを受けることができ、また、保険会社は医療機関からの請求書を受け取ると、まず文句を言うことなく、さっきと支払っていたという。
つまり、医療費支出を管理する機能がほとんどどこにも存在しなかったのである。 中規模以上の企業の従業員であれば、このように会社が報酬の一環として医療保険を支払ってくれるが、小さな企業あるいは個人経営といったところでは、保険の金額が高すぎて払えない、あるいは払いたくない、または払えてもあえて保険のリスクを自分の側で取って、何もなければ払わないで済ませたいといったところが出てくる。
そして、たとえばパートタイムで働く人の場合は、会社は保険を負担してくれないので自分で保険料を支払うこととなる。 このような背景から、米国では九四年現在、二億二四〇〇万人の人々が医療保険を手にしているとはいうものの、残りの四〇〇〇万人近くは無保険者である。
今説明した米国の医療保険の仕組みからも分かるように、医療保険に加入していないこれらの人々すべてが深刻な無保険者ではなく、自分の意志で保険に加入しない人たちも含まれている。 しかし、多くは、貧困にはちがいないがある程度の収入があるためメディケイドの認定を受けられない層で、とくにそれら世帯の子供たち、約一二〇〇万人についての医療機会が危ぶまれている。
この事態を憂慮したC大統領は先般に国民皆保険導入などの医療改革の必要性をアピールしたが、医療の国家統制を嫌った国民側が最終的に同意しなかったため、実現に至らずにいる。 しかし、同大統領は医療改革案の失敗後も、近年の米国の好況を背景にして、無保険者世帯の子供たちについては、メディケイドの受給者の条件を緩和することで医療費をカバーする法案改正に着手している。

参考までに言うと、米国の無保険者の調査は、毎年、国勢調査の際に併せて行われている。 その国勢国庫負担分を減らしているわが国とは対照的ではある。
ちなみに、日本では医療保険支出、つまり国民医療費の負担内訳は、公的保険相当分がおおよそ九割で、残り一割程度が患者自己負担分であり、公的保険の中に含まれている国庫負担分は支出全体の二四%程度になる。 このように医療とその保険の方式についてずいぶん異なる価値観から社会整備を模索する日米両国で調査というのは国民をランダムに取り上げ、その登録する住所に電話をかけて得た回答に基づくというもので、電話口に出た39人の答えを集計しているため、米国籍者以外の者の回答が混ざる可能性は否定できず、また、当然のことながらホームレスに卯ついても不明である。
それはともかくとしても、米国の無保険者問題は、日本とは異なる倫理観や価値観に基づいて発生したものである。

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